ほんとの明るさ

ミルク食パン

 仕事をしていて、ふと父の顔が浮かんできたりする。これまで離れている時とは全く違う、お布団の中で宙を見ているような、ぼんやりしたようなどこか不安げな表情なのだ。これまでは、そんなことも思い浮かべないようにしていた。ただ忘れるために忙しくしていたような心の隅にある重い塊を隠す様にしていたのかもしれない。でもどこまで行っても逃れきれなくて、顔には出さないけれど気持ちが疲弊していたのだ。
 今は違う。厄介なものの塊の様に見えてたものが、もうそうではなくなっている。ちょっと面倒くさいことも、何だか清々しいのだ。分かっていて心が逃げていた時、面倒なことは目の前に何も起こらないけど、引き受けた時、心がこんなに明るくなれるのだ。ほんとの明るさ、ほんとの笑顔、ほんとの日常・・。だから、ここに来てくれた父に感謝。
 実は・・、父ではなく母だったらいいのになぁと、正直思う事がある。母と娘と言うものは掛け替えのないものなのだ。もう一度一緒に笑いたいなぁ・・などと、日頃思ってもいなかったようなことも思うようになった。少し穏やかな心境になれてるのかなぁ。いや、まだまだかもしれないけど。
 明日は仕事休みなので、父が持ってきた衣類などを片づけようかと思う。父の部屋は、来てからはお布団はそのままだ。一日の中でもほとんどその中で過ごしている。邦ちゃんの机がまだ移動してないし、押し入れの中の引き出しの衣類入れもそのままなので、父のものを入れるスペースがないままなのだ。下着も上着も何が入っているのかさっぱり知らないままだ。これから寒くなるので、足らないものは買わなくちゃ。今までそんな気持ちになったことは無かった。
 朝はパンとコーヒー。お昼はお粥と邦ちゃんに作ったお弁当の残りを少し。夜は、と言っても5時頃だけど、お粥とお味噌汁とお魚、野菜など。わたしが仕事に行く日は、三食とも一人で食べることになる。夕ご飯の時、お味噌汁はどうしてお汁しか飲まないのかと思っていたら、左手でお椀を持つのが出来にくいのだ。スプーンを出したら、お味噌汁の具も全部食べていた。父が食べている時わたしはお茶を飲んだりしてそばにいる。わたしはボーっとしているので、そんなこともすぐ分かってやれないのだね。左手、左足の麻痺は二年半前の脳梗塞のときの後遺症になるのだろう。
 夕方、歯医者さんから帰って来たとき電話があった。ケアマネさんから、面接に来て下さる金曜日の約束の日の時間の変更だった。どんなケアマネさんかなぁ。奈良のケアマネさんから父のことは聞いているそうだから安心。
 あぁ、父のことばかりだ!膝から下がジーンと冷えてくるような夜だ。お風呂で温まって寝よう。